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ヘルペスウイルスはどこから発生したもの?

2019年10月02日
患者と説明している医者

ヘルペスウイルスは人間にとってポピュラーな存在で、性器の水泡以外にも食事をしている時に唇を噛んでしまった時にできる口内炎の病原体でもあります。単純ヘルペスウイルスは1型と2型の2種類がありますが、世界保健機関(WHO)が公表したデータによると50歳未満の人で全世界で37億人(67%)が感染しています。2型については15~49歳までの人のうち、4億1700万人が感染しているとみられています。50歳以上の人も含めると、大半の人がヘルペスウイルスに感染していることになります。

大半の人間に感染していると考えられていますが、ウイルスの由来はヒト以外の動物であったと考えられています。ドイツで実施された研究によれば、人間に感染するヘルペスウイルスはヒトと同じ霊長類のチンパンジーに起源を持つことがわかってきました。

ドイツ連邦保健省の傘下あるロベルト・コッホ研究所のセバスチャン・カルヴィニャック・スペンサー博士の研究チームは、チンパンジーと人間のヘルペスウイルスは同一株から分化したものであることを見つけました。現生人類よりもチンパンジーの方が先に誕生していたと考えられるので、動物のウイルスが何らかの方法でヒトに感染したという仮説が最も有力です。

動物からヒトにウイルスが伝染した原因についてですが、最も有力な仮説はチンパンジーが食べかけた果物や木の実を人間が食べたことであると考えられます。口内炎を発症すると唾液の中にも多くのヘルペスウイルスが含まれるようになり、唾液の飛沫に接触をして伝染をする場合があるからです。ヒトと他の類人猿の動物は食べ物の種類が共通している部分があるので、石器時代に同じ果物を食べていた可能性があります。人間やチンパンジーがお互いに食べかけの果実を食べたとしても、不思議ではありません。

チンパンジーとヒトは非常によく似ており、DNA情報の99%が同じです。DNAに書き込まれている遺伝情報がよく似ていることから、ヒトとチンパンジーに共通で感染する伝染病も幾つか確認されています。飼育されているチンパンジーで、ヒトからアデノウイルス・麻疹ウイルスや百日咳菌にうつされることもあります。逆にチンパンジーからヒトに伝染したと思われるウイルスも存在し、ヒトのHIVウイルス(エイズ)もチンパンジーが起源であると考えられています。

一般的にウイルスは遺伝情報が変異しやすく、異なる種の動物に伝播するケースは珍しくありません。エイズやヘルペス以外にも動物に由来する伝染病はたくさんあり、身近なものであればインフルエンザがあります。インフルエンザウイルスは野鳥の間で感染しますが、鳥インフルエンザウイルスがアヒルなどの家禽にから豚の体内に入って変異を起こしてヒトに感染するようになったと考えられています。

ウイルスの変異は自然発生的に起こるケースが多いのですが、人間が意図的に遺伝情報を書き換えて変異を起こさせる場合もあります。ヘルペスウイルスを悪性脳腫瘍などの癌細胞にのみ感染をするように遺伝子を書き換えることで、癌の治療に用いる研究が進められています。

東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科の藤堂具紀教授の研究グループは、遺伝情報を書き換えた単純ヘルペスウイルスを利用して難治性の脳腫瘍の治療を行う研究を進めています。膠芽腫と呼ばれる悪性の脳腫瘍は治療が困難で、手術で除去しても高い確率で再発するので非常に死亡率の高い病気です。腫瘍化した細胞でのみ増殖をするように遺伝情報を書き換えられたウイルスを使用することで、従来は不治の病であった悪性脳腫瘍を治療することができるようになりました。単純ヘルペスウイルスは性器や唇に激痛をもたらす水泡を生じさせる厄介な存在ですが、ガン治療で人類に貢献をする可能性を秘めています。